自習室

こもります

「採用基準」のリーダーシップ論を、メーカー企業の活動に援用する

「採用基準」という本を読んだ。 大きな方向性として学ぶところが多く刺激を受けたのと同時に、この考え方・エッセンスを自分の務める会社(日本の電機メーカー)で意味あるものに落とし込むにはどうすればよいか、自分の日常の活動にどう活かしていくか、、などについて考えを巡らせている。

メーカーでの「役職的」リーダーシップ

「採用条件」で想定されているコンサル的なリーダシップが、それ単独で、ものづくり活動を劇的にクリエイティブにしたり加速したりするわけではなさそう。(※ものづくり企業の経営を改善することはできるのかもしれない)

メーカーのものづくりにおいては、ハードのチーム、ソフトのチーム…など「チームごとの活動」がある。チームごとのリソース配分や工程分解、その優先度付け、品質向上などなど…の活動のリーディングは、たしかに誰かによって行われている。チームリーダーとか言われている人は、そのチームの範囲内においてリーダーシップを発揮しているはずだ。現存するリーダーシップを差し置いてコンサル的なそれで現場をどうにかしようというのはさすがに無理がある。

だが、ここに大きな問題があるように最近感じることが多い(だからこの本を読んだ)。それはものづくりの会社において、役職や「チーム」、あるいは「専門性」といった概念の呪縛が非常に強いことが引き起こしているように思う。

チームのリーダーが、自分のチーム内に限定したリーダーになってしまう…すなわち、上から来たお題をチーム内でうまく解くことというただ一つの目的のためのリーダーになってしまう。そして自分のチーム以外にはあまり口出しをしない。またあるいは、従来技術の延長線に乗った目標設定をし、それはたしかに専門的には唯一無二の素晴らしい進歩なのかもしれないが、対外的に日の目を見ないものになってしまったりする。

これはまさしく、伊賀氏がこの本の中で言っている「役職的な思考」によるものだ。

これはプロが互いにリスペクトし合う、ということの現れだったりもする。わかりやすいところでいうと、ハードを作ろうとすると、ソフトだけのプロダクトの場合と比べて活動の素早さや調達・品質安全に関する考え方が大きく変わる。専門家であるほど「わからないこと」についてもよく分かる。だからお互いの考え・活動のスタイルを尊重する。これは素晴らしいことなのだけが、互いへのリスペクトそのものが、リーダーシップの欠如の原因となっているようであり、どうしたものか、、と考えさせられている。

グループの中で比較的リーダーっぽい人がリーダーをする、という慣習

自分のチーム内に限定したリーダーを生み出してしまう要因一つとして、ある専門チームの中で、ある程度経験を積み「そのグループの中で比較的リーダーっぽい人」がリーダーをせざるを得ない、という慣習・流れがあると私は見ている。

エンジニアとして率いられる立場の気持ちを考えると、そのチームの活動・専門領域について熟知したシニアな専門家が、自分の上司であってほしいと考えるのは非常に自然である。無論、専門家として秀でている人が、リーダーとしても力強ければ、それに勝ることはない。もしいま時点出そうじゃなかったとしても、まずリーダーにしてしまって育てば良いという考え方もある。しかしそれらがうまく行かなかった場合に、シニアなエンジニアをリーダーに据えることには大きなリスクが伴う。

当人が「採用基準」で言うところのリーダーシップを理解していない場合:

言うまでもなく、チーム内に限定したリーダー(あるいはチームマネージャ)と化す。下手するとセクショナリズムが発動し、チーム内の局所便益(楽・安定など…)に最適化した行動を始め、プロジェクトとしての成功やアウトカムの最大化と対立すらする。

「専門性を買われて」チームのリーダーに抜擢された人は、専門性の高さ故に「出世した」と考えるため、専門性側でより頑張ろうとしてしまうというのもあると思う。これもセクショナリズムの原因の一つ。

そもそも当人がリーダーをしたくない・適性がない場合:

伊賀さんの言うところのリーダー以前に、チームのリーダーとしても辛い感じになり、チームも、当人も疲弊する(←よく見る)

(勇気を出して)専門性とリーダーシップを分けてみる

上のような弊害を起こさないために、エンジニアリング的専門性と、ものづくり組織でのリーダーシップを別々に育てる必要があると私は考えている。そして、両方持ち合わせる人材を育てる。これがものづくり企業の生き残る道である(そして、ものづくり企業だからこそ生まれ得る独自の強い人材の輩出の仕方でもある)

  • A「専門家としての職能が高い結果としてリーダーになった(抜擢された)」
  • B「専門家としての職能も高く、かつリーダーとしても強い」

この2つは全く異なる状態だ。日本的なものづくり組織は、Bの登場を夢見て大量のAを生み出し、たくさんの不幸を生んでいる。

リーダーシップはある程度、その人の性格やセンス、これまでの体験に依拠するところが多い成分だと思う。地頭の良さやエンジニアリング的スキルとは別で考えよう。ただし、これも伊賀さんが書籍の中で書いてあるとおり、リーダシップは別に天才的な才能とかではなくて、育成しうるもののはず。エンジニアリングのキャリアとパラレルにリーダーシップ育成が進むような組織構造・プロジェクト体制を作ることが重要だろう。

組織的ものづくり活動にとっての「プロダクトマネージャ」という概念の重要性

ところで、最近 Google なんかを筆頭として Product Manager/Lead という概念が生まれ、日本(のIT系企業?)にも少しずつ根を下ろし始めている。ざっくりいうと、作り・届けるもの・サービスがどんなものであるか、の全てについて一貫してデザインし責任を持つ人である。

日本では略語で混同されがちな Project Manager/Lead は、Product Lead の存在を定義した場合には、Product (/のあるフェーズ・機能)を作る~などの「活動 = Project」を引っ張る人のこと。大事なのはユーザに触れてもらう成果物である Product の責任者と、(作る)活動である Project の責任者を分離していることだ。

この2つのPMは、しょっちゅう対立するはずである。対立するのが正しい。無限のリソースを使ってでも理想的な Product を長期的なVisionに沿って描き、こだわり続ける Product Managerと、活動のコスト・期間・品質を考えて作る、という活動を達成するProject Managerが、互いに妥協せずに高いレベルで調和してこそ、良いものを良いタイミングで作り出すことができる。対立はするかもしれないが、いいものを作りたい、という思いは共有できていなくてはならない。

日本ではこれらがざっくりと「リーダー」としてひとまとめにされていることが多いように思う。これはちょうど前に、「グループの中で比較的リーダーっぽい人がリーダーをする」と書いたことと対応している。

リーダーがプロジェクト志向過ぎると「お決まりの承認プロセスとスケジュールに載せてきっちり出しました」という感じで本当に世に出す必要があるのか疑問な製品が世に出されたりする。逆にプロダクト志向過ぎると、時間をかけ・メンバーを無限に疲労させながらオーバースペックで顧客に求められない・ビジネスとして成立しないものを生み出したり(あるいは出せなかったり)する。

もちろん、中には、プロダクトリードとプロジェクトリードの両方のスキル・才能・コミュ力を兼ね備えたスーパーマンみたいな人がいたからこそ出来てしまった素晴らしい商品もあったのだろう。だが、そういうものづくりは属人性が高く、継続したり、後進を教育したり、同じスキームを他に転用できなかったりする。なので、うまく仕組み化していく必要がある。

ものづくり活動におけるリーダシップの仕組み化

この Product Manager と Project Manager は、ともに従来リーダーと言われている人を、スキルや性格・センスの特性に基づき分割し、それによって属人的だったリーダーシップを、ものづくり活動に適した形で構造化しようとしているものだと私は捉えている。

Google はアソシエイトプロダクトマネージャー(APM)つまり、、PM見習いの制度を持ち、組織的にプロダクトマネージャを定義・育成しようとしている。Google の場合、APMになるような若者は、エンジニアリングチームとの円滑なコミュニケーションのために開発のスキルも持ち合わせていることが期待され、コンピュータサイエンス(…平たく言えばプログラミング)を理解している人が多いと思われる。

しかしPMとしては「ソフトスキル」や戦略的思考、そしてもちろん最高のユーザー体験を提供することへのこだわり、などが求められ、これは開発者としての専門性とは別物だ。

Google の PM 像や「ソフトスキル」についてはこの記事が詳しい。 www.axion.zone

そしてこのプロダクトマネージャに必要とされる能力セット・性格・センスの特性は、「採用基準」でいうところのリーダーシップの、ものづくり活動版であると私は考えている。「プロダクトマネジメントのすべて」では、PMのことをこのように評している。

プロダクトを成功に導くためにプロダクトマネージャーが幅広い役割と責任範囲をもつことから、「ミニCEO」とよばれることがある。(中略)求められるのは、プロダクトの成功のために必要なこと全てに目を配り、こだわり抜くことである。

このようなリーダーシップを組織として育て、専門家のリーダーにも(その本来の専門性とは別に)身につけてもらい、伊賀さんの言うように「リーダシップの総量」を増やしていくのが、ものづくり企業に必要とされていることだと強く感じる。時勢を読んでお金等資本を転がして利益を出すようなビジネスではなく、ゼロから価値を生み出すことのできる = ものづくりができるプロが、リーダーシップも兼ね備えるのが最強なはずだし、人類社会への強烈な貢献となるはずだ。

トヨタでは「主査/チーフエンジニア」という呼称で、ほぼプロダクトマネージャに相当する職能が定義されているらしい。歴史の長い重層的な企業でどのように活躍されているのか・どのような人がなるのか・実際うまく回っているのか?なんかは大変興味があります。 https://dl1.dl.multidevice-disc.com/dl/24320-78bc54a79944978ab3077f83ae9ba39f