自習室

こもります

デザイン思考が世界を変える 感想

2年前に久々にIDEO本が出た!くらいの勢いで買ったは良いが、「The Art of Innovation 発想する会社!」みたいに心躍るかっこいいデザインコンサルの事例集な訳でも、ブレインストーミングや観察といったデザインスキル紹介な訳でもなく、物作り以外の話が多くて途中で挫折してた。当時の僕にはこの本が何を「教えてくれる」本なのかわからなかった。


今回読み直してみて、少しわかったことをメモしておく。

デザイン思考が世界を変える―イノベーションを導く新しい考え方 (ハヤカワ新書juice)

デザイン思考が世界を変える―イノベーションを導く新しい考え方 (ハヤカワ新書juice)

発想する会社! ― 世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法

発想する会社! ― 世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法

ベクトルが逆だった

物作り、ビジネス改革、"イノベーション"をするためには、こんな活動が必要である、こんなスキルが必要である、というHow To本ではない。


この本で再三語られているのは、

  • 技術的実用性、経済的実現性、有用性の三つのバランスをとること
  • デザイナがデザインスキルをもってデザインするのではなく、皆がデザイン思考をすることが大事
  • 人間を最優先にし、経験をデザインする。(顧客に限らず)人に伝える物語を重視すること。

などだが、こういった立場をとらないとあんなこんな問題は解決できない、というより、こういった考え方を導入することで様々な事象が取り組むべき問題と化し、その場で"イノベーション"が起こる、という風に僕には読めた。


行き詰まってる、何をすればいいかわからない。これは問題があることはわかっているけど問題が具現化されていない段階。筆者のいう「デザイン思考」を用いることで、そこに手をつけるべき対象だったり隠れたニーズだったり、ビジネスの元みたいなものを見つけることができる。デザイン思考家にのみ見えてくる課題や取り組む対象がある。


つまり、従来型の「売れる商品を作りたい」とか「効率をよくしたい」みたいな明示化された問題への解決法ではなく、問題を顕在化し取り扱えるようにするための思考法・活動法というわけ。こういう意味で、当初僕がこの本に期待していたベクトルとは逆向きだったと感じた。

問題解決という行為の消費

このことに気がついて、僕は少し恐ろしさを感じた。この思考法は言い様によっては当事者にとっては問題がないところに、問題をあえて見つけ出し、それをだしにしてビジネスをしてやろう、という風にもとれるからだ。その意味で、この書籍のタイトルは非常に正しい。この書籍中ではインドの事例、アフリカの事例、文化の違いを課題として扱うような話がいくつか出てくる。IDEOのコンサルタントが"イノベーション"というエンタメを楽しむために、他の大陸に進出しているように僕は感じた。


これからよりクリエイティブな仕事を続けたかったら(ただプログラミングをするエンジニア、絵を描くだけのデザイナ、治療を行うだけの医者になりたくなかったら)、デザイン思考を身につけろ、既存のマーケットにとどまらず、問題なんかなさそうなところに穴掘ってでも手をつけろということだ。余計なお世話でも良くなる方向に世界が変わるんならもちろんそれは良いことでしょう。


明らかに穿ち過ぎな見方だけど一応メモってことで。


本文中でシマノのCoastingはデザイン思考のプロセス?の成功例として華々しく紹介されているが、実際の「もの」としては現時点では絶対に成功とは言えないだろう。実物を一度たりとも見たことがないのだから。他の事例についてもそういったことがありそうだし、デザイン思考が万能だとは思わない方が良さそうだ。

で、デザイン思考って?

肝心の「デザイン思考とはなんぞや?」だけど、これについては読んでいただきたい。紹介されている一つ一つの思考法やちょっとのスキルは、(やや冗長でちらかってる感はぬぐえないが)「The Art of Innovation 発想する会社!」の内容をしっかり継承していて、それらをすでに実践している人にはよい復習と21世紀適応のための応用学習になると思う。