(6冊目) 考えることの科学 推論の認知心理学への招待
人間が世の中ををどう認知するか。見たとき、触れたときに何を感じ、どんな情報を取得するのか。それら感覚は相互にどのように連関しており、人々は最終的にどのような反応を起こすのか。何を考えるのか。最近はそういうことに興味があります。認知心理学で調べてたら入門書として適していそうだったのでこの本を購入。
- 作者: 市川伸一
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1997/02
- メディア: 新書
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サブタイトルがこの本の内容をだいたい説明してくれています。
我々の普段の生活における推論(思考、判断)と、形式論理や確率論とのギャップについて一冊まるっと例を挙げながら説明してくれる本。
推論は間違える
例を挙げると
「80点以上の人は手を挙げて」と先生が言った。
太郎君が、手を挙げている。
∴太郎君は、80点以上だったんだな。先生は「80点未満の人は手を挙げてはいけない」とは言っていないから、太郎が60点だったとしても、先生の言いつけを守っていないことにはならない。
のだが、この場合、手を挙げなかった60点の花子さんがいたとしたら、彼女は先生の意図をくんで、常識的に判断している。これは「非論理的」な思考になってしまっているのではなく、論理的思考「以上」の推論が出来ていると言うべきだろう。
科学哲学者ヘンペルの考案した室内鳥類学者のパラドクスが非常におもしろい。
「すべてのカラスは黒い」ことを証明するにはその対偶である「黒くない物はカラスでない」ことを証明すればよい。従って、室内にいて鳥を一度も見ずに、部屋の中の物を一つ一つカラスでないと確認すれば、証明が進むことになる
のか? って話だったり。
三囚人問題+変形三囚人問題http://self.blog.so-net.ne.jp/2006-09-06のベイズ定理を用いた解説が、我々の直感的推論と一致しないことについての紹介が特に興味深い。この問題についてはさらに突っ込んで、直感的にもベイズ定理と同様の理解をわれわれができるように「解釈」する手法の提案も行われており、実践的な認知心理の側面が見られたことに感激した。
まとめ
僕の研究に絡める話も一番最後にふっと出てきた。
バイアスやエラーの研究を、「問題の方に問題があったのではないか」と研究する見方もある。
インタフェースのデザインはまさにこれに当たると思った(ノーマン氏のあれやこれにしつこく書かれている)。
ちなみに筆者は、上記のような考え方が過ぎて自分の欠点を直視したがらない傾向になってしまわないよう気をつけるよう警告している。人間の推論の特性を把握することで自らを改善し、さらには社会的な偏見や国際紛争といった、人間の推論の特性の絡んだ問題を解決できないか、と問いかけている。
人の思考のバイアスやエラーについての研究は人を馬鹿にしているようだ、と怒る人もいるが、人の思考のバイアスやエラーと言った問題を共有するのが認知心理学である。
人間はそうした自分の思考の仕方を自覚し、いっそう洗練された適応的な思考の仕方を身につけることが出来る
話が多い(笑)
上記のような非常におもしろい事例とともに、我々の推論の手法と形式論理、確率論とのずれを紹介してくれる。ぽんぽんとおもしろい話が出てくるので、非常に読みやすくしかもわかりやすいのだが、それが故に、まさに今、感想文が書きにくいのが問題だ(笑)
今後、認知心理的なアプローチを必要とするときにすぐに参考に出来るよう、この本はずっと手元に置いておくことになりそうだ。